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バイ・パ・パンプキンパイ | 坂みち

バイ・パ・パンプキンパイ

この文章はだいたい4500文字くらい、約8分で読めます
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※以下の作品のネタバレを含みます。

・君の番にしてください(明月悟司×昼川三岳)
・君の番になろうとは思わないので(鹿生隆×水芳世津)
・君の番にはなれなくていいです(須賀誠×朝背深代)

 

 

 

『一緒にパンプキンパイ作らない?』

 三岳さんから誘いのメッセージが入ったのは、ハロウィンの近づいたとある日だった。作りたいです、と返信をして、日程の調整を眺める。

 三岳さんも世津さんも年上で、忙しいのは向こうだ。日程が決まると、問題ない、と書き記してスケジュールへ登録する。

 年上の友人、にしては幅が広すぎる二人は、番の友人である悟司さんから繋がった縁である。

 ころり、とベッドで寝転んでいると、風呂上がりの誠さんが戻ってくる。ベッドの表面が沈んだ。

「どうした?」

「三岳さんがいつもの面子でパンプキンパイ作ろうって」

「羨ましいな。三岳さんのお菓子、悟司がいっつも自慢してるんだ」

 悟司さんは傍目にも分かるほどに番にべた惚れで、私でさえもそのお菓子作りの腕を伝え聞くほどだった。

「また覚えて帰ってきて、家でも作ります」

「待ってる」

 顔が近づいてきて、髪に埋もれる。同じシャンプーの匂いの筈なのに、アルファだからか、こうやって息を吸っては楽しそうにしていた。

 身を起こし、首筋に指を引っかける。

「お誘いしてます?」

 悪戯っぽい言い方は、私への逃げ場を残している。私がお預けした所為なのだと分かっていても、最後の一押しを残されるのが悔しい。

 唇を彼の耳元に近づけ、そっと囁く。

「誘ってます」

 覆い被さってくる番を見上げ、すっと唇に笑みを刷いた。

 

 

 

 三岳さんの家へお邪魔すると、朝方に連絡が入ったとおり、悟司さんもその場にいた。

 元々は三岳さんと世津さんとの三人でお菓子作りの予定だったのだが、朝方、急に仕事が無くなった悟司さんが参加することになったのだ。

「本当は三人の予定だったんだけど、手伝うって言うから置いてやって」

「焼きたてのパンプキンパイ、心から食べたかったんだよ……!」

 世津さんは先に到着していたらしく、昨日三岳さんが作ったらしいクッキーを摘まみながら手を振ってくれる。

 私はひっそりと手を振り返すと、手を洗ってエプロンを身につけた。キッチンに集合すると、まずは、と三岳さんの手がカボチャを叩く。

「まずはカボチャの下拵えからだが、温めるか」

「あ。分かります! 温めると切りやすくなるってやつですね」

 手を挙げて言うと、何故か世津さんから頭を撫でられた。そして世津さんはおてて洗い直しの刑を食らっていた。

 悟司さんはカボチャの載った皿を電子レンジへ入れ、短い時間をセットする。私たちは解凍のために表に出されたパイシートを眺める。

「須賀家の料理長は使わないですけど、パイシートって本当に便利ですよね」

「料理長は使わないんだ?」

「凄いんですよ。お惣菜の冷凍食品なんかも料理長は買わないんです。須賀家の皆さんはたまに食べますけど」

「それは凄い」

 三岳さんの冷凍庫はお惣菜もパイシートも入っており、ラーメンのパッケージを見せつけられながら、とても美味い、とオススメを貰った。

 須賀家の冷蔵庫とはいえ、家族が好きに買ってくる分には自由である。今度買ってみよう、と冷凍庫に戻されていくカラフルなパッケージを見送った。

「悟司さんって冷凍食品とかレトルト食品ってどうなんですか?」

 本人より先に、三岳さんが口を開く。

「悟司は値段に関わらず食いたがらない食品がはっきりしてるかな。基本的に舌は良い」

「御曹司ですもんね。誠さんも何でも食べはするんですけど、料理長の味に慣れているので、私からすると判定が厳しめに見えます」

 そっちはどう、と振られた世津さんは、ひらひらと手を振った。

「うちの番は食べるのにかかる時間の方を気にしてることが多いかな。映画の公開前後なんかは、栄養補助食品なんかに頼ることも多いみたい」

「ああ。味を気にしてる暇もないのは納得です」

 三人で話し込んでいると、その間にカボチャは温まり、悟司さんが皮をむき、種取りをして切り分けてくれる。

 裏ごしの作業は任せてもらい、練っているとオレンジ色のペーストが出来上がった。

「この時点で美味しそうですね」

「味見していいよ」

 三岳さんから許しが出ると、スプーンで掬ったかぼちゃのペーストを味見する。温めてペースト状にしただけで既に美味しかった。

 三岳さんはペーストに調味料を加え、改めて練っていく。

 私たちは解凍されたパイシートを広げ、型にセットして縁を綺麗に整える。中に調理済みのかぼちゃペーストを入れた。

「蓋の部分は、やっぱジャック・オー・ランタン型にしようか」

「ハロウィンのかぼちゃですね」

 丸いシートから、目と鼻の形をくり抜く必要がある。世津さんは携帯電話でお手本を検索し、私に見せてくれた。

 ただ、お手本があっても実際のバランスは難しい。やたら目と鼻が近く、鼻の三角形はいびつで、口も歪んだジャックができあがった。

 もう一個のパイの蓋は三岳さんが顔を作っている。同じお手本を元にしているのに、あちらは見本そのままの出来だった。

「三岳さぁん……。私、下手でした…………」

 ふっと三岳さんは笑い、汚れていない手の甲で私の頬を撫でた。

「かわいいかわいい。上手だよ」

「番の隣で別のオメガを口説かないでくださーい」

 隣で悟司さんが拗ね始める中、三岳さんはてきぱきと表面に卵を塗り、生地をオーブンへ入れてタイマーをセットする。

 オレンジ色の光が内部を満たすと、一旦、休憩することになった。牛乳が余っているようで、小鍋に牛乳と砂糖を入れて沸かしてくれる。

 四人分のマグカップが並ぶと、お礼を言って手に取った。机の上には世津さんも食べていたクッキーが置かれており、有難く口に運ぶ。

「焼き上がるの楽しみだな。誠に自慢してやろ」

 写真撮ろう、と悟司さんに誘われ、四人で写真に収まる。早速それは誠さんと鹿生さんに送られたようだった。

 時間を置かず、ピコンピコンと二通のメッセージが送り返される。

「……見なくていいんですか?」

「どうせ恨みの言葉だろうから」

 悟司さんは本気でその後、携帯を開こうとはしなかった。早々にホットミルクを飲み干し、番におかわりをねだっている。

「悟司さんは、鹿生さんとも仲がいいんですか?」

「最近は家にお邪魔することが多いから。世津さんも一緒にいるよね、里沙ちゃんも」

 里沙ちゃん、は鹿生家の第一子の名だ。ついでに最近の写真を見せてもらったが、以前よりもちもち度が増していた。

 今日は鹿生さんが一緒にいるらしい。

「里沙は三岳さんのほうが好きだから、たまに塩対応されてるけど」

 世津さんがそう言うと、悟司さんは遠い目をする。

「あんなにプレゼント貢いでるのになぁ……。里沙ちゃんアルファっぽくてさ、三岳さんに対してはデレッデレなんだよ」

「うん。すごく好かれてる」

 三岳さん本人ですら、そう言う有様だった。

「私も会ってみたいです」

「本当? 家に会いにおいでよ。…………たぶん、深代くんにはデレッデレで、須賀さんには塩だろうなぁ……」

 世津さんが言うと、悟司さんも同意した。

「おもちゃ貢ぎ度が足りないから、塩まで行かないかもよ……」

 誠さんにはおもちゃを用意させることに決め、里沙ちゃんの好みなどを聞いていると、あっさりと焼き時間が過ぎてしまう。

 オーブンが立てる音に耳を向けると、一気に香ばしい匂いが漂ってくる。

「うわあ……ツヤツヤさくさくで美味しそう……!」

 表面はきつね色に焼けており、甘く、香ばしい匂いが漂っている。妙なテンションで出来上がったパイと一緒に写真を撮った。

 机に移動させたパンプキンパイを勿体なく思いながらナイフを入れると、パリパリと小気味よい音が響いた。

 断面は艶やか、かつ鮮やかで、ほこほこと湯気が立つほど温かい。

「た、食べよ……!? 食べちゃおうよ……?」

「食べましょう……! きっと今が美味しいです!」

「ほら。食べるために皿出すぞ」

 悟司さんと私が妙に盛り上がっている横で、面白そうに三岳さんが皿を出す。世津さんは無言で顔を輝かせながら、素早く切り分けられたパイを皿に盛っていった。

 飲み物は引き続きホットミルクが温め直され、机の上が温かい食べ物で満たされる。

「いただきます!」

「…………ます!」

「略すんじゃない」

 三岳さんにツッコまれた悟司さんは、いただきます、と言い直し、早速フォークを掴んだ。

 私も素早くパイを割り、口に運ぶ。

「「美味しい!」」

 ほこほこのカボチャは甘く味付けされて滑らか、パイはサックサクで口当たりがいい。焼きたてが最高のスパイスだった。

「そりゃ良かった。世津さんは?」

「美味しい…………」

 世津さんからもじんわりと喜びが滲み出ており、次々と口に入れている。一切れはあっさり食べきってしまい、二切れめに突入する。

 作りたいお菓子のレパートリーがまた増えてしまった。

「余ったら持って帰ってもらおうと思って多めに作ったんだけど、悟司もいるからなぁ」

「任せて! 誠の分なんか残さないよ」

 悟司さんは、隣にいる三岳さんから小突かれている。私も、目の前のこの美味しいパンプキンパイを残すという配慮はいまの腹では難しそうだった。

 結局、四人がかりで綺麗にパイは無くなってしまう。

「そうだ、忘れてた。『トリックオアトリート?』」

「ああ。だからトリート……パンプキンパイだったんですね」

 来週にはハロウィンを控えていて、当日は須賀家でも軽い仮装パーティーを開く予定だった。

 三岳さんは悪戯が決まった子どものような笑いを浮かべると、私と世津さんに包みをくれた。中身はカボチャやコウモリの形をしたクッキーだった。

「さっき出したクッキーは失敗作で、こっちは出来がいいやつ」

「え。私、何にも用意してきてないですよ……!」

「遊びに来てくれただけで十分だよ」

 その優しさに感動していると、悟司さんが一気にジト目になった。三岳さんはどうやら私に甘いらしく、番としては気が気ではないらしい。

 世津さんもお礼を言い、丁寧にクッキーの袋を鞄に仕舞っていた。

「次はクリスマス前に、ケーキかなぁ。何にしようか?」

「私、ショートケーキ好きです」

「俺はブッシュドノエルも好き。洋酒入りのやつも」

「俺、タルトも好き!」

 三者三様の言い分に、三岳さんは迷った様子を見せ、検討しておく、という言葉を残して苦笑していた。

 無意識に口の中がふわふわのスポンジを求める。どれに決まっても、その他のケーキになっても、きっと美味しいものができそうだった。

きみつが
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坂みち // さか【傘路さか】
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