※「耳付きオメガ時空のガウナーさんと、さいまじ時空のロアさん」が出会うことがあったら、という時空が交差するif的な小話です。
※「耳付きオメガは生殖能力がほしい」を読んだ後でお読みください。
朝起きると、自分の頭の上に獣の耳があった。ついでに言えば、普段、耳があるはずの場所には耳はなかった。
ぴこぴこと動く耳を押さえながら、呆然と窓硝子を見る。
よろよろと寝台に戻り、眠っている伴侶を揺らす。まだ早い時間に起こしたにも関わらず、ガウナーは怒ることなく目を開いた。
「どうしたんだ、ロア……」
まだ開ききらない視線をこちらに向けるが、彼に驚いたような様子はない。それどころか、寒いだろう、と俺を寝台に引き込もうとする。
視界に入るような位置に移動し、その肩を掴んだ。
「なあ……ガウナー! 俺、耳が生えて……」
「…………? 君は、元々耳が生えているが……?」
「じゃなくて、これ、犬耳みたいな……!」
「いや。いつも通りだろう。…………ああ」
合点がいった、というように彼は柔らかく笑う。
「そうか、今日は『嘘が許される日』だったな。寝起きに仕掛けてくるとは……」
伸びた腕が、今度こそ俺の身体を寝台に引き込む。普段よりも力強い腕に、違和感を覚える。
ぎゅう、と抱き込まれると、はっきりと違いが分かった。伴侶には、こんな匂いはしないのだ。
「ゆ、夢か……?」
「今日の君は、少し変だな。体調でも悪いのか」
「体調、っていうか。俺、いつもは犬耳ついてないだろ?」
「いや、だから。いつも通りだが」
そろり、と何かを察したのか、ガウナーの両腕が俺の肩を押した。二人して寝台の上に座り、気まずげに向かい合う。
「俺が、ロア・ハッセなのは、間違ってないよな」
「ああ」
「俺たちは、結婚してる?」
「勿論だ。運命の番であり、人生の伴侶でもある」
聞き慣れない言葉を問い返す。彼は当然のように、番、と繰り返した。
「番って何?」
「…………本気で言ってるのか?」
「『嘘が許される日』は、相手を困らせたら駄目だろ」
「それは、そうなんだが……」
目の前の伴侶によく似た人は、伴侶とそっくりの困ったような顔をする。だが、微妙にどこか違うのだ。
うーん、と俺は腕組みをして、思考を放棄した。
「俺、これ夢だと思うんだ」
「はあ……」
「だから、もう一回寝る。混乱させて悪かったな」
俺は布団の中に潜り込み、頭の中でなんでもない物を数え始める。寝台の上で座っていたガウナーは、そろり、と横たわる俺の頭を撫でる。
違う伴侶だが、大きな掌の感触は似ているかもしれない。
「…………ありがと」
「起きたときには、夢が醒めていることを祈っているよ」
返事ができたのかどうかは、覚えていない。
ふ、と意識が途切れ、また浮上する。
もぞり、と布団を掻き、目元を擦りながら起き上がった。隣で眠っている伴侶の首筋に鼻先を寄せ、匂いを吸い込む。いつも通りの、伴侶の匂いがした。
窓辺に歩み寄り、自分の姿を映す。頭の上には、あの犬のような耳は残っていなかった。ふあ、と欠伸をして、寝台に戻る。
「…………夢でよかった」
両手を広げ、愛おしい伴侶に抱き付くと、頬を擦り寄せた。