にゃおにゃんにゃん年にゃん月にゃん日

この文章はだいたい2100文字くらい、約4分で読めます
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※「龍捕る猫は爪隠す」の番外編です。
本編のネタバレを含みます。

 

 


 雑誌に夢中になっている成海の隣でテレビを点けると、冒頭から可愛らしい猫の映像が流れ始める。どうやら今日は語呂がにゃん月にゃん日だそうで、それにかこつけて猫の動画特集をしているようだ。

 僕が隣に視線を向けると、雑誌は横に撥ね除けられ、じぃっと彼の瞳はテレビ画面を向いていた。色とりどりの猫たちの可愛らしい様を食い入るように見つめている。

 僕がじっと成海を目で追っているのにも気づく様子はない。そっと隣から離れると、リビングから自室に向かった。

「『浮気は断じて許すまじ』」

 そそくさと服を脱ぎ捨てると、猫の姿に転じる。僅かに開けて出たドアから身を滑り込ませてリビングへ戻り、音を立てないようにすす、と部屋を移動する。

 テレビの音に紛れて背後まで近付いた僕は、ぴょん、と成海のいるソファの背に飛び乗った。

「うわ」

 背後が沈み込んだことに驚いた声が上がる。僕はするりと肩から彼の膝に飛び下り、膝の上で仰向けになった。

 前脚でふかふかの腹の毛をかき混ぜ、ここ、と指す。

『かまって』

 みゃ、と端的に告げた言葉に、うっと声が漏れ口元が覆われる。

 最近では人の姿にも同じ反応を返すようになった彼は、感情が振り切れるともうダメらしい。口をもごもごさせて、何らかの欲望を押し殺している様をよく見掛ける。

 そんな成海が一杯いっぱいになっている様が、僕の独占欲を満たすのだ。

『……他の猫のほうがいいの?』

 子猫のような一段と高い声で、触れてこない彼の手を招く。

 一瞬の間を置いて、慌てて伸びてきた手を捕まえると、ざりざりの舌で舐めた。

「そうじゃなくて、オーバーキルというか……」

 あぁ……、と声を漏らして目元を押さえている成海は、ようやく僕を撫で始める。掌の窪んだところに頬を当て、ごろんごろんと身体を曲げた。

 テレビからの音声が漏れて成海がそちらに目を向けようものなら、彼の腹に頭を押し付けてかまえと強請り、視線も手も自分に引きつけて離さないようにする。

『やだ。さみしい』

 最終的にはリモコンを操作してテレビを消してしまい、べた、と彼の膝に乗り上がった。ずっと雑誌ばかり読んで、それからテレビを見始めてしまって、今日は特に甘えたい欲が満たされなかった。

 成海は暴挙を繰り広げる僕の頭を撫で、ふんわりと唇を緩めた。

「俺が構わなかったからか?」

『そう。雑誌ばっかり、あとテレビばっかり』

 ああ、と成海は傍らに寄せた雑誌を見やる。彼は雑誌を持ち上げると、折り目を付けていた場所を開いた。

 そのページにはペット同伴向けのホテルが取り上げられており、大きな風呂が付いているような部屋もある。

「玲音が猫モデルとしての撮影した時、付き添いで俺にもバイト代が出ただろ? 予定外の収入だったし、それを元手に旅行に行けないかと思って」

 どうやら、僕が疲れても猫に気軽に戻れるようなホテルを探していたらしい。夢中で読み込んでいた所為で僕に構えなかった、とのことで、ごめんな、と大きな両手で顔をもみくちゃにされる。

 その掌を肉球で押さえながら、その顔立ちを見上げる。

『……勝手に嫉妬しちゃった。ごめんね』

「いや。嫉妬するくらい好きでいてくれるんならいいよ」

 僕を抱え上げると、ぎゅう、と抱き竦められる。ん、と頬にキスが落ちるが、猫の姿では毛が間に挟まって感触が伝わりづらかった。

 成海の顔を前脚で捕まえて、すりすりと鼻先を擦り付ける。

『うん。嫉妬しちゃうくらい大好き』

「じゃあもう許した」

 折角だから、とブラッシングをしてもらい、僕はうにゃうにゃとやりながら満足げに息を漏らした。

 毛並みが整った僕が成海の隣で寛ぎ始めると、彼は不思議そうに僕を見る。

「人に戻らないのか?」

『疲れるんだもん』

「一緒に風呂に入るって言ったら?」

『戻る』

 お風呂入ってくれるの、と甘えに掛かると、承諾の言葉が返る。

 本格的に他の猫から奪い返したことに満足の息を漏らすと、彼はそんな僕を目を細めて眺めた。

『僕のいるとこで他の猫ばっかり見ないでね』

「……善処します」

『うんって言って!』

 成海はにゃごにゃご駄々を捏ねる僕を抱き上げると、僕の着替えを拾いつつ浴室へ向かうのだった。

動物の魂を持つ一族の話
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坂みち // さか【傘路さか】
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