にゃおにゃんみゃあ年にゃん月にゃんにゃん日

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※カプ描写はほんのちょっぴり(ほぼ無)です。
小豆ちゃん+龍屋家の話。

 

「大変! もうこんな時間!」

 揃って休みの日、時間的には午後である。

 珍しく成海が寝坊したらしく、僕は横で熟睡している彼を揺さぶる。むにゃむにゃと起きる様子のない同居人に、手っ取り早く猫へ転じた。

 ぼふ、とふかふかの腹で顔を押しつぶしてやると、毛皮の下で悲鳴だか歓声だか分からない声がする。

 両手が僕の体を掴み、腹のあたりで息を吸い込む音もした。

『そんなことしてる場合じゃないんだってば! 時間!』

 ぽこぽこと肉球で叩くと、ようやく成海は時計を見た。そして、がばっと起き上がる。それからは修羅場だった。二人してなんとか服を着替え、手早く部屋中を掃除する。

 掃除機の音が一段落した頃、チャイムの音が鳴った。

「はーい」

「こんにちは!」

 玄関を開けた先にいたのは、成海のご両親とお兄さんだった。

 今日は、息子の新居を見学がてら、皆で以前ふたりで行った保護猫カフェに行ってみよう、という話になっている。

 三人は一度ホテルに荷物を置いてきたようで、部屋に上がる前に大量のお土産を貰った。僕の味の好みは予想がしやすいらしく、どれも好きな品ばかりだ。

 掃除の済んだ部屋に通すと、広くて綺麗な部屋だと驚かれた。

「あ、時間」

 僕と成海は外出用の鞄を持ち、皆で揃って家を出た。あんまり家でのんびりしていると、猫カフェでの時間が足りなくなってしまう。

 猫カフェに行こう、という話になったのは、龍屋家のグループメッセージで、成海が猫カフェに行ったことがある、と言ったのがきっかけらしい。

 その話を聞いた、お父さんもお母さんも、お兄さんまでもが、羨ましい! と口を揃えた。

 普通の猫カフェに、お兄さんは行ったことがあるそうだが、結果は散々、猫たちは怯えて逃げていき、ぽつん、と飲み物を楽しんだそうである。

 当たり前のように、お父さんも同じ結果になるであろうことが予想される。そこで、僕も一緒に行ってもらえないだろうか、という話になったのだ。

 お礼はいい、と言ったのだが、その代わりにお土産は僕の好物ばかりが揃えられていた。

「猫ちゃんは、怖がったりしないだろうか……」

 猫カフェが近づいてくると、お父さんは特に湿っぽくなっていく。それこそ、成海やそのお兄さんの倍くらいの年月、猫に嫌われ続けた人生だったはずだ。

 隣でお母さんが慰めているが、もう帰る、と言い出さないかひやひやした。

「いらっしゃいませ」

 皆で猫カフェに入り、必要な手続きを済ませる。偶に成海が僕以外に浮気したくなった時に来るため、この猫カフェの猫たちは概ね顔見知りだ。

 必要な手続きを済ませ、飲み物を受け取って奥へと向かう。案の定、蛇神の加護持ちが四人、という状態の僕たちは、猫に遠巻きにされた。

 そんな中、ゆったりと近寄ってくる姿がある。

『あら。とんでもないものを四人も』

「『小豆ちゃん。こんにちは』」

『こんにちは』

「『成海のご家族なんだけど、やっぱり怖い?』」

『怖いわよ。少しは慣れたけど』

 僕たちの背後で、成海が小豆ちゃんのことを説明している。小豆ちゃんは僕の背後をちらりと見ると、お父さんの足元に近寄った。

 すり、と体を擦り付ける。

「猫が……足に……」

『他の子じゃ怖がりそうだし、ちょっとだけね』

 それから小豆ちゃんは、おもちゃで遊んで、代わる代わる膝の上に乗って、と愛嬌を振りまいてくれた。

 他の猫たちも、小豆ちゃんの様子を見てか、次々と挨拶に来てくれる。

「『小豆ちゃん、大丈夫そう?』」

『まあ、撫で方は悪くないかしら』

 ころり、と膝の上で腹を見せる様子に、お父さんは目に涙を滲ませていた。結局、長い時間をそこで過ごし、空腹に耐えかねて店を出る。

 三人とも満足げで、明日も来ようか、と話をしていた。その日は一緒に夕食をとって別れる。

「楽しんでくれて、よかったね」

「……楽しんだのは良かったが、あの様子だと、旅行中、通い詰めるんじゃないか」

 両親の様子を見ていた息子だけは、心配そうに肩を丸めていた。

 

 

 

 それから少し経った頃。水面下でひそひそとやっていたのは知っていたが、小豆ちゃんを家族として迎えたい、と龍屋家の間で話が持ち上がったらしい。

 問題となるのは、蛇神の加護が強すぎることである。現在も、小豆ちゃんは理性的に受け止めてくれているが、本能的な畏れは残り続けるだろう。

 僕がそのことを心配していると、始祖様から連絡が入った。悩みを相談すると、小豆ちゃんに加護を授けてくれる、という。

 小豆ちゃんを連れてくる必要もないらしい。加護を与えておいたので会ってみてくれ、と言われ、僕が成海を連れて猫カフェへと向かった。

 小豆ちゃんは、今までなんだったのか、というほど成海にじゃれつき、加護を得た黒い毛皮はいつもより、つやつやぴかぴかとしていた。

「『成海のご両親が、小豆ちゃんと暮らしたい、って言ってるんだけど、どう?』」

『ふふ。壁紙やソファをぼろぼろにしてもいいのなら』

「『伝えておくね』」

『よろしく。また家猫になったあかつきには、今度こそ家族より先に死んでやるわ』

 そこからは話が早かった。お試しから、正式な受け入れ、へトントン拍子に話が進んでいった。

 現在、龍屋家のグループラインに送られてくる小豆ちゃんは、よくブラシを掛けられるからかつやつやで、ちょっとふっくらしている。

 壁紙やソファをぼろぼろにする、と宣言していた小豆ちゃんだが、元々賢い猫である。僕を経由して細かく爪とぎの要望を出し、お気に入りの爪とぎを日々ばりばりやっているそうだ。

 

 

 今日も、成海は送られてくる小豆ちゃんの動画にでれっとしている。

『動画より、実物のほうがいいでしょ……!?』

 その度に僕は、彼の膝の上に飛び込んでは、浮気を阻止すべく甘えたくるのだった。

 

 

 

動物の魂を持つ一族の話
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